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11 月とレクイエム

2012年11月01日

国井 健宏 (御受難修道会司祭)

カトリックでは11 月は死者の月。死者のために祈り、お墓参りをし、教会でミサを捧げる習慣がある。葬儀ミサや死者のためのミサを伝統的に「レクイエム」と呼ぶのは、ラテン語の入祭唱の初めのことば「安息を」から取られている。わたしたちが死者のために祈るとき、そこにわたしたちの信仰の世界観が表されている。

死者を大事にする教会の儀礼の形は、もともとはキリスト教以前にローマで行われていた「ご先祖様の祭り」に帰ると言われている。死後3 日目、7日目、30 日目と年の命日に家族がお墓の周りに集まり食事をした。キリスト信者もその習慣を受け継いだが、ただ異教のいけにえの代わりに、ミサが捧げられるようになったという。彼らは「希望のない者のように悲しむ」(1テサロニケ4・13)ことをせず、復活の希望に支えられて祈った。職業的「泣き女」のような嘆きの声に包まれるのではなく、キリスト者は詩篇を歌い、東方教会ではアレルヤを歌って、死者の復活の命を祝ったのである。

この素晴らしい復活信仰の表現は中世になると大きく変わってしまった。「死者の日」そのものは998 年、クリュニー(フランス)の修道院で始まり、200 年かけてヨーロッパ全体に広がっていった。復活の希望はどこかに消えてしまい、死後の審判の厳しさが強調され、煉獄や地獄の苦しみが過度に恐れられるようになった。13 世紀のダンテの「神曲」は死後の世界を豊かなイメージで見事に描ききった。詩人ビルジリウス(人間の理性のシンボル)による煉獄と地獄の案内、そして美しいベアトリーチェ(信仰と愛のシンボル)の天国案内の描写は不滅の傑作となった。「神曲」はこの時代の死後観をよく表している。この世界観によると、死は裁きの時で恐ろしいものであり、人生をいかに地獄に行かないように生きるかが、生きる者の最大の課題と考えられていた。シナイ山にある聖カタリナ修道院の食堂には、最後の審判の古い絵が飾られていた。天国に登る梯子を修道者が上っていくのであるが、途中でばらばらと落ちて地獄に行く者がいる。梯子は厳しい苦行と戒律を表し、これを守らない修道者は永遠の火に焼かれると、戒めているのである。これでは落ち着いて食事もできなかったろうにと、ついしりごみしてしまう。死者ミサの続唱、「怒りの日よ」も恐ろしい歌である。

第二バチカン公会議を経た教会は、「死」をもう一度聖書に基づいて、復活信仰を基礎として理解しなおすことを指し示した。死者のための典礼においても「キリスト信者の死の復活的性格をより明らかに表現すること」と決めた(『典礼憲章』81 項)。また、祭服の色も悲しみや絶望の黒ではなく、地方の文化や伝統の中で、希望を表すものとなるようにと勧められている。そして続唱「怒りの日よ」は死者ミサでは使わないことに決められたのである。

死者のための祈りに、復活の希望と永遠の命の慰めを再び取り入れ、ふさわしい表現を与えたのは、ドイツのルーテル派の音楽家たちであった。カトリックよりも二歩も三歩も先んじた感がある。バッハのモテットのほとんどは葬儀の礼拝のために書かれたという。「イエスよ、わが喜びよ」は死を超えて、命の主を慕う信仰に満たされている。人生の苦労や罪の悲しみがあっても、救い主は人と苦しみをともにしながら、命の喜びに導いてくださる方である。バッハより100 年以上後のブラームスの『ドイツ・レクイエム』は死者のための祈りとしては最上段に位置付けられるものであろう。『あるドイツのレクイエム』という控えめな題をつけているが、1 曲から7 曲まで、全部聖書のことばである。壮大なオーケストラを背景にして「悲しんでいる人たちは幸せ」という福音のことばに始まり、終曲の「今から後、主にあって死ぬ人は幸せ」という黙示録のことばで終わる。

日本の教会の典礼は自国語になってやっと40 年、死者のための祈りも、ラテン語から翻訳された祈りを使っているが、やがて日本の信者の信仰体験からほとばしり出る祈りが作られることを望んでやまない。そのような祈りが生まれ、それにふさわしい音楽の表現を得るとき、本当の日本のレクイエムが、死者を悼むというより、死者とともに復活を待ち望む祈りとして、祈る人を強め、慰めてくれるものとなるであろう。。

11 月の死者の月を迎える今、死者のために祈るとはどういうことなのか、どのような希望と愛をもって祈るのか、信仰の理解を深めたい時である。

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